柿の接ぎ木術
材料・情報

樹木の増やし方の手段として、種まき・挿し木と共に接ぎ木というテクニックがあります。
早く、強く成長をさせたい場合など、一番有効なのが接ぎ木術です。
これは、自分が育てたいと思う樹木の枝を、同じ種類の台木となる樹木に接ぎ足すことで、接ぎたい樹木と同じ性質を持った樹木にする方法です。
今回は、お客様より柿の木の接ぎ木の依頼をいただきました。

今回台木に使った柿の木も、実は接ぎ木苗です。
折角ですから別に枝を伸ばして、どんな実がつくか試してみても面白いかと思います。
初めての作業と言いながら、隣で見ていたお客様には淡々と、一気に仕上げまでいってしまって慣れていると誤解されたかもしれません。
作業自体は、段取りさえしてしまえば1時間もかかりません。
迷いながらするより、短時間で仕上げなければならないので、神経質に考えるより練習してある程度勘をつかんだら、なるようになる!で作業するくらいでいいと思います。
何事も経験すると楽しいですね!

話に入る前に、接ぎ木について、も少しお話しましょう。

 そもそも接ぎ木は何のために行うのでしょうか?
園芸的には、
○育ちの遅い品種や、環境に弱い品種を、強い品種に接ぐことで健全に育成させる。
○優良な花や実をつける樹木を、その樹木の優良な性質を損なうことなく増やすため。
○品種改良や新品種開発のため。
○上記の内容を踏まえたうえで、収穫量を増やすために接ぎ木を行う。
などがあげられます。

 挿し木や種では、同じ性質が出ないこともあります。
最初に書いたように、早く成長させたい場合、接ぎ木は一番有効な手段です。
 なぜならば、最初から根の出ている樹木に接ぐわけですから、接ぐことさえ成功すればどんどん芽を伸ばすことが出来るからです。反面、接ぎ木は挿し木などと違い、大量に同じものを作ることができないとも言えます。
 応用技として、1本の樹木に、色々な品種を接ぐこともできます。
例えば、夏ミカンに、温州ミカンやポンカン、レモンなどを枝ごとに接ぐこともできます。
(ただし、同時に接ぐもの次第で味が変わってしまうことがあるので注意。)

 今回のお客様のご依頼は、親戚の家にある柿の実がとてもおいしいので、接ぎ木して自宅でもおいしい柿を食べられないか?という内容です。
 実は仕事として接ぎ木をした経験はありません。
知り合いの庭師に相談したら、「実は自分も、(別の)お客様から柿の接ぎ木頼まれたのですが、やったことないからって断ったんです。」とのこと。
 本来ならそれが正解なのかもしれません。かと言って、やらなければいつになっても覚えません。
今回の接ぎ木は、自分も勉強のためにやらせてもらうということで、材料代の実費以外いただかないことにして、お受けしました。

 仕入先で、接ぎ木するのにいい台木になる柿の苗ない?と相談すると、本当は豆柿がいいそうですが、今はないそうで、その代り勧められたのが柿の授粉用に使われる禅寺丸という品種です。
 こちらのお客様のお宅には柿の木がないのと、スペースに限りがあるので苗木を使いましたが、植えられれば大きい柿の木でも大丈夫です。
 ちなみに、苗木なので、この台木丸ごと接ぎ木の柿に変えてしまいます。

 自分が子供の頃、近所に柿の接ぎ木名人がいらして、近所中の柿の木に、色々ないい品種を接いで歩いていました。
もちろん、我が家も数種類接いでもらって育てた記憶があります。
あの実は確かにうまかった!
 今は1本も残っていないのが残念ですが、自分にとっても身近で思い出のある作業なのです。
 ですから、これは自分でもやってみたい仕事であります。
今回はいい作業機会をいただけてうれしい限りです。

 使用する道具は、よく切れるはさみとナイフ。10年以上前に、鎌倉の刀剣・正宗で買った切り出しナイフはすでに錆びていたので、今回はカッターナイフを使います。道具は全て汚れを落とし、除菌ティッシュで拭いてあります。
 作業は人の手術と同じものと考えてください。雑菌がついているわけにはいかないですよね?
 後は、接ぎ木テープと防腐剤。場合によってノコギリ。これだけでオッケーです。

 上記写真では、すでに台木の頭部を落とし、接ぐための枝を用意したところです。作業は新芽の時期である4月上旬。接ぎ枝は前年柿の木からお客様自身が切ったものを冷蔵庫のチルド室で保管しておいてもらいました。
 枝は、先端に近い、なるたけ芽と芽がつまった枝をお願いしました(花芽ではだめです)。
やはりある程度の太さがある枝の方がよいようです。

 すいません。いきなり作業は終了しました。
 接ぎ木は時間との勝負です。ゆっくり写真撮っていたりしたら、それだけ成功率が落ちてしまいます。ですから今回の作業の手順を以下にまとめてみました。
 ちなみに、今回4か所に接ぎましたが、こんなに行うことはありません。確実性があれば1か所でもいいでしょう。
 自分の行った方法を記載いたしますが、これは自己流ですので、もっとうまいやり方もあると思います。勉強してみてください。

 接ぎ合う場所は、皮の内側にある白い部分、形成層と呼ばれる箇所です。人の筋肉のように、筋になっています。この部分同士をぴったりくっつけてやればいいという理屈です。
 
まず、接ぎ木する枝(接ぎ穂)の準備をします。
 柿の場合、接ぎ穂は台木より動き出しが遅い方が成功確率が高いとのことで、前年から冷蔵保存してもらいました。
実際はこんなに長期でなくてもよいと思います。
 勢いのある枝の先端から少し下った辺りの、芽のつまっている部分を使います。これを2芽残しに先端部を切り、下方部は形成層の厚さで斜めに切り込みを入れます。
 その部分を台木の幹にくっつけるわけですが、それだとうまく重ねづらいので、斜めに切った反対側も、尖らせる目的で斜めに切り込みを入れます。
 切り込みは、デコボコしたり波打ってはきちんと癒着できません。鋭い刃物で大胆に一気にいきましょう!
最初に少し練習するとよいですよ。(自分も事前に10本くらい切ってみました)
 ここからは時間との勝負。形成層が乾かないように、自分は水につけておきましたが、プロっぽく見せるなら、口でくわえるのがいいらしいです。あくまでも乾かさないためなので舐めてはだめです。

 次に台木の方に移ります。
今回は頭部に2か所、幹に2か所腹接ぎします。
 作業は1か所づつ、巻きつけまで行って順次進めていきました。
 頭部の場合は、上から形成層に真っすぐ切り込みを入れて、そこに接ぎ穂を刺します。
 幹に接ぐ場合は、上から斜めに形成層に切り込みを入れます。角度が結構難しいので、あくまでも形成層だけで収まる切り込みをします。これも練習してから臨んだ方がいいです。腹接ぎは切り込みの失敗はできないくらいの気持ちで行いましょう。

 形成層同士をぴったりさせるには、多少やりながらの調整も必要になります。
この辺は経験で修正を加えるしかないですね。(初めてのくせに偉そうですいません)
 お互いの筋がぴったり合うように差し込めたら、後は接ぎ木テープで隙間のないように、動かないようにぐるぐる巻きにしてやればいいでしょう。テープは思ったより切れやすく、引っ張りながら強く締めようとするとすぐ切れてしまいます。
加減が難しいです。

 最後に接ぎロウや防腐剤を、乾燥防止のため穂先やテープの周りに塗ります。
接いだ場所を袋で覆う方もいます。とにかくこの先芽が出てくるまでが管理をしっかりしないといけません。
 苗木ですから庭植えせず、持ち運びできる植木鉢に植え、暖かい場所に置いてもらいます。
4月だとまだ夜冷えますし、霜も降ります。家から出したり入れたりしてもらって、たまに霧吹きで全体に湿度を与えてもらい、待つこと3カ月。 

 「新芽出てきましたよ!」7月お客様からうれしいお知らせが。先端と、脇芽から勢いよく新芽が伸びました。とりあえず接ぎ木成功です!よかったよかった。いち早く脇芽から伸びましたが、一番太い接ぎ穂から出ました。実験で一番細い接ぎ穂も接いでみましたが、こちらは芽が伸びず。やはり栄養の備蓄量が多い枝の方が活着しやすいのだと思います。

 接ぎ穂の2芽どちからもいい枝が伸びています。接ぐ際、この芽の方向も大切な意味をなします。一応うまく伸びた場合を想定して、芯に立てていく先端の枝を内側に、2番目の芽は外に伸ばすように接ぎました。
 それが右写真の伸び方です。想定通りの出方でちょっとうれしいですね。

 折角先端からも芽が出たのに。と言われるかもしれませんが、今後の柿の木の成長のためにも、このきれいに伸びた脇芽を残して、頭部は切り詰めました。すでに苗木の高さに匹敵する新芽が伸びています。来年早々に地植えにしたいと思います。お客様もよく管理してくださいました。

相嶋造園