毎年剪定をさせていただいていたマンションの植栽ですが、かねてから相談を受けていた植え替えに着手することになりました。
「ありきたりのものを植えた植栽はいや。道行く人が足を止めて、眺めて楽しんでいってくれる植栽にしたい。」というご希望です。
オーナーご夫婦は植物が大好きです。
しかし、お二人とも大病を患ったりと、ご自分で自由に動けることも減りました。
せめて自分のマンションだけでも皆に喜んでもらえ、自分でも楽しめる空間にできたらいいのに、と思っていらっしゃるのだと思います。
そんなオーナー様のお気持ちを感じ、自分に出来る限りのお庭を作ってあげたいと奮起しました。

人々の集う庭に・後篇
〜マンションの植栽〜
植栽・施工

 前篇までで、北東側の植栽が終わりました。
ここからは、南西側の植栽で、’和’を作っていきたいと思います。
’和’は、人々の輪の意味を込めた植栽です。
必ず、皆の手で震災という不幸を乗り越えて、お互い笑いあえる社会にしていきたいと願っております。

 今回は、序盤から多くの方々に声をかけられました。
こういうときだからこそ、皆さん気分が明るくなれることが欲しかったんだと実感しました。
数日通ううちに、毎日来てくださる方も増え、今まで交流も挨拶もなかったマンション周囲の家の方々と、気楽に話ができ家の庭の相談にものってあげられるようにもなりました。

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 ここで大変だったのが、多すぎる土の処分です。別の仕事で、こちらに土をどんどんまけていたので、必要以上にかさが多くなっていたのです。そのときは、まさかここを植え替えるなんて思っていませんでしたので。花壇からはみ出るほどの土を車に空けていきます。
 こちらは大まかに3つのボックスに分かれていますが、全体の統一されたイメージで植え込みをしますので、同時に完成だと思ってください。

それぞれのポイントに、樹木を割り振って植えていきます。

石を置き、下草で調子を合わせたら、砂利を敷き込んで完成です。マンションに向かって左手から説明いたします。

 こちらはお客様が欲しがっていたイチイをメインに、手前からジンチョウゲの紅白、イタヤカエデ、白花つつじ’暮の雪’、黒竹、奥にはふっき草の群生地。黒竹は、根を張らせたくないので、植木鉢のまま埋めています。イチイの左側には這い寒椿、カイドウ、岬灯篭を配置。

 このボックスの横長に広がる左翼は、完全に屋根の下なので、石組だけ置くことにしています。ですから始まりも石を意識させたものに。和風をイメージした黒ボク石(富士の火山岩)を使い、落ち着きある雰囲気にしながら、格調高くしていきます。砂利は白川産、御影石。

 「松が植えてある!?」見る方皆さん感心していきます。やっぱり松欲しいですよね、和なら。玉キャラ、松、五色南天、シャクナゲ(和洋交配種)、常緑ヤマボオウシ’ホンコンエンシス’、ツツジ、桜ゲンカイツツジ、オガタマ’バニラ・アイス’。を使用。

 今回一番「これは何ですか?」と聞かれたのが、こちらの桜ゲンカイツツジ。桜色のゲンカイツツジです。
花の形、色、姿、皆さん初めてだったようで、わかる方は1人もいらっしゃいませんでしたが、同時にとても素晴らしいと喜んで行かれます。
 きっとこういう光景を、オーナーは見たかったんだろうなと思いました。
 これはツツジの品種の中でも上位クラスの高級品でありますが、育てづらさも一級品です。これを維持していくことで、楽しさ、厳しさ、木への関心、今後も共有できればいいと思います。

 右端のボックスには、こちらもお客様のリクエストのシダレ梅を。珍しい白花です。お分かりですか?これで松竹梅揃いました。手前には黒ボク石と盆栽のシンパク。ヒイラギナンテン、本霧島ツツジ、吉野ツツジ、奥にはユキヤナギとシュンランを群生に。



これで北東側、南西側、ともに完成です!

 毎回後悔するのですが、作業中は写真を取る暇がおしく働いてしまうので、お伝えできる内容が少なくなってしまい残念です。

 実は作業中に、植えた樹木を盗まれました!まさか玉もののドウダンツツジを引っこ抜かれるなんて思いもよりませんでした。しかし、逆にいつも見に来てくださる近所の方から「うちに変わったオモトあるからあげるから使って。」と言われ、早速植えさせていただいてもおります。そういう人との出会いは本当に貴重で、ありがたいものです。

 先端の黒ボク石に合わせるのは、黒龍とまだ縮れたイワヒバ。春が深まると、葉がよみがえって広がっていくのがおもしろい植物。もちろん庭木としては高級品です。また、尖ったイチイに合わせて玉もののキャラをあしらうなど、対比も楽しみにしました。落ち着いた感じにしながらも、飽きさせない工夫をしています。

 盛りを迎えつつあるサクラゲンカイ。
現在入院中のオーナーの奥様が、数日後いらしたときはきっと満開でしょう。
そのときの笑顔が待ち遠しいです。

最後にもう一度北東側の植栽をアルバム風に掲載いたします。

向かいのマンションの女の子が、「ふくろうさんただいま。」と毎日挨拶してくれます。
犬の散歩で歩かれている近所のおばさまが、「この道を歩くのが楽しみになったわ。」と喜んでくださいます。
裏手に住まわれている、見た目は怖そうなおじさんが、「ここの庭見てたらさ、俺も花ほしくなっちゃったよ。あんたいい仕事してるな。」と草花を抱えて帰ってまいりました。
「日に日にここが変わっていくのにびっくりした。」「マンションの庭でもこんなことできるんだね。」「こんなにお花が見られるなんて本当にうれしくなっちゃう!」
実質施工に来たのは7日間。
毎日数人、多い日は20人の方から質問や声をかけられました。
時には手を留めてにわか園芸講習。皆さんの笑顔が自分の喜びでした。
最初は自分でも何ができるか自信ないけど…と言っておられた助っ人のパドメ様も、庭作りの面白さを感じたらしく、最後は電車賃くらいにしかならないのに来てくださいました。
植木を盗まれもしました。逆に田舎が仙台で今帰りようがないとおっしゃるお父さんからオモトもいただきました。
自分が植木を盗まれて落ち込んでいると、「これがさ、中途半端じゃないいい庭だから、俺盗まれないか心配してたんだよ!いつも歩いて見ててやっから。」「うちの植木鉢も持って行かれるのよ!ちょっといいとみんなで楽しめないで自分のものにしたがるいやらしいのがいるの。でも毎日このマンションの前通って見ててあげるから。」
と言ってくださる方もたくさんいらっしいました。
自分も、その方々も実はお互いの名前すら知りません。
それでもこの庭を通じて知り合い、この庭を通じてつながっていけます。
大震災と言う誰もが暗い気持ちになっているときだったからこそ、貴重な安らぎの場となったのかもしれません。
オーナーご夫婦だけではなく、周りの方が喜んでもらえたことが、やってよかったと思えた仕事でした。
この庭は、まだ完成ではありません。
四季折々に草花を足し、最初に植えた樹木を適性の大きさに管理し、花を咲かせ、いつまでも人の集まる庭にしなければいけないからです。
これからが大切になっていきます。


最後に、残念なお話を乗せなければなりません。
この掲載した庭の形は、このページをアップするまでの1カ月の間に変わってしまいました。
10本に及ぶ樹木が盗まれました。
数人の人間にとっては、格好の獲物としか見られないのですね。
しかし、植木を盗む現場に遭遇して、怒鳴って追いかけてくれたおばさまもいます。
これにはとても感謝しております。
自分にとってお邪魔する庭する庭全てが自分の家の庭だと思っていますから、大変に腹立たしいです。何よりオーナーご夫婦の悲しい顔と、これからも盗まれてしまうのではないかと言う不安を考えると、なんと声をかけたらいいかわからなくなります。
この件に関して、警察ではどうしようもありません。
希望ある庭にしたかったのですが、手放しでは喜べない現状にもあることを書かせていただきます。